初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
徒歩三分。うちから一番近いおでんや。
席につくなり素早く注文した相良さんにちょっと苦笑しつつもいい匂いにつられて自分もいくつか注文した。

少し深めのお皿に汁と共に入れられてきたそれはやはり今日もおいしそう。
相良さんは割り箸をパチリと綺麗に割ると、すぐに食べ始めた。いつもなら飲み物を待って乾杯して食べ始めるのに。そんなにおなかがすいていた?クスリと笑いを漏らしながら

「そんな急がなくても」

「あ?や、あれだよ、早く帰りたいし?」

おなかがすいてて急いでるのかと思いきや、返ってきた言葉はそれで。早く帰りたい理由がまさかの?

「なんか飲まなくてもいいの?」

いつもなら日本酒をおいしそうに飲みながらおでんを味わう。それを思い出して聞いてみたけど。

「クリスマスのやつ、あるだろ?」

相良さんと一緒に飲もうと用意したものが冷蔵庫に入れられたまま。
今度ゆっくりだったか、ゆっくりできるときにだったか。そう言われた事を思い出す。

「あ、うん」

「帰ったらそれ、飲もう」

そう言って、またおでんを食べる。
これは何を言っても無駄で、ともかく早く食べてここから帰る気だ。でも、早く帰りたいのは……一緒かもしれない。
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