初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
店滞在時間30分ちょっと。
一人で来たならともかく、二人でこの時間。きっと最短記録じゃないだろうか。

店を出ると私の手を取りスタスタと歩きだした相良さんに少し小走りで着いて行く。
うちが近くなった頃にやっと歩みを緩めて隣に並んだ私に聞く。

「おなかいっぱいになった?」

相良さんが食べるのを呆気に取られて見ていたから、たいして食べてないけど。そこそこ満たされた状態にはなった。

「え?あ、うん」

「じゃ、このまま帰るよ」

「うん」

どこにも寄らずにって意味だと思って返事をしたけど、私の家の前を通り過ぎてさすがに

「あれ?うちじゃないの?」

「うちでいいだろ?」

って。ごく当たり前のように返ってきた言葉。
もちろんダメな理由なんてないからそのまま頷いた。


     *****


目の前のグラスに注がれたシャンパンゴールドのもの。以前いただいたのは貴腐ワインだったけど、それよりも澄んだ色。

「これは、またお母様が?」

「ん、そう」

「わ、それは楽しみ」

私がそう言うと相良さんはフッと笑みを浮かべて

「じゃあ乾杯」

グラスを掲げて一口飲んだ。

うちに来た時は少し余裕のない表情だったけど、今は随分と穏やかな様子で。自宅に戻ってきた事でゆっくりでき良かったな、そんな事を思いながらグラスに口をつけた。
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