初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
その腕をとられて、そのまま相良さんに抱きしめられた。

「さっきは、ごめん」

相良さんの名前を遠くで呼んでいた声。それがもう一度聞こえてきた気がして言葉がうまく出てこない。

「今日はまっすぐここに来る予定してたんだけどな」

そう言ってぎゅっと強く抱きしめられる。だけどやっぱりさっきの声が頭から離れない。

「……そう、なんだ」

抱きしめられてるのに、熱が伝わって来ない気がして。

……だって、さっきの。そう思っていたらスッと体が離された。

「あーそれで。なんつーか、言いづらいんだけど」

今度は少し下を向き、なんとも歯切れの悪い様子の相良さん。

こういう時は不本意な事を言う時。それはそうだ。きっとさっきの女の人の事を弁解しに来たんだから。

「……うん」

「さっきの、聞いたろ?あれ」

さっきの、とはやっぱりその事。

「……うん」

聞こえてた。しっかりと、女の人の声が。

「だよな、ったくっ。わざと聞こえるように言ってんだよ、アレ」

アレって言うぐらい親しい仲。

「……そう、なんだ」

なんかもう、聞きたくない。ついさっきまであんなに幸せな気持ちでいたのに
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