初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
玄関を開けると空腹のおなかを刺激するいい香りが漂ってきた。靴を脱いで上がりそのままキッチンに顔を出し「ただいま」と声をかけた。

「おかえり、寒かったでしょう?」

まるで朝ここから出かけた様に出迎えてくれたお母さん。

「荷物置いたら手伝うよ」

そう言ってすぐに自分の部屋へ行き荷物をおいてコートを脱ぐとそのままキッチンに降りて行く。手を洗ってから「何手伝えばいい?」って聞いた途端、

「お姉ちゃんが手伝うの?」

「え?」

「だって私、お姉ちゃんがキッチンに立ってるのお茶いれるとき以外見たことない」

キッパリと言った妹に、思い返してみても確かにその通りで。愛歌はしたり顔で見ながら、「ふぅーん」というと、

「じゃ、お母さん。私着替えてくるからお姉ちゃんに手伝ってもらってね?」

そう言って二階に上がって行く愛歌を見送った。

「ほら、おなかすいたから私も何か手伝えるかなと思って?」

誰も言い訳なんて聞いてない。だけど、なんとなく言ってみたくなるのはなんとも居心地が悪いから。
仕事が終わってまっすぐに帰ってきたから当然夕飯は食べてない。だから嘘はいってない。

「じゃ、これ切ってくれる?」

お母さんは野菜を冷蔵庫から出すと、切り方の説明を丁寧にしてくれた。
部活だサークルだと言ってまったくキッチンに立つ事のなかった私に料理の説明をするお母さんはちょっと嬉しそうだった。
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