初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
「あのっ、急にお邪魔しちゃってごめんなさいっ」
その光景をぼぅっとして見ていたら挨拶が遅れてた。それを怒っていると思ったのか桃華ちゃんが焦ったように言う。
「あーいえいえ、ちょっとぼんやりしてて。こんばんは桃華ちゃん」
今度は桃華ちゃんに向かってニッコリ笑って見せた。ぼんやりというか。本当の事は言えそうにない。だからその理由を悟られないように精一杯の笑顔を作った。
「この前うちの母親が、桃ん家に忘れものしたらしくて」
急に上から相良さんの声が降ってきた。それは桃華ちゃんをフォローするように聞こえて。
「蜜柑子(ミカコ)おばさんが何時でもいいって言ってたんですけど、私はしばらく実家のほうには帰れなくて……」
「桃ん家にあっても邪魔だろうし、俺が引き取るかって、な?」
桃華ちゃんの肩に手を置き、落ち着かせるようにポンポンと優しく叩く。
あーその仕草。私が坂下くんや先輩の事で悩んでる時にも……そっか、私だけじゃなかったんだ。そう思うとさっき打ち消したはずのそれがまたムクムクと育ち始めてきていた。
「それじゃ、私はこれで」
「え?」
「もう潤兄に渡せたので」
ここまで来て、渡してそれだけで帰らせるとか。彼女はなんも悪くないのに、私の勝手な態度のせいで気を使わせている。
何故かわからない。彼女はすごくいい子なのに、相良さんと一緒にいる所を見ると。いつも、心をかき乱される。