初恋のカケラ【3/13おまけ更新】

「父さん、久しぶり」

御線香もないから、ただ手桶の水をかけるだけ。だけど、そこにまるでお父様がいるかのように相良さんは優しく話しかける。なんだかそんな姿を見てるだけで胸が詰まる。

うちの両親は二人とも健在で、相良さんと同じようにできるかと言ったら無理なような気がする。

「今日は大切な人を連れてきた」

大切な人―――。
その言葉ですごく緊張してきた。

相良さんはそのまま隣で固まっていた私の肩を抱きながらまるで私を紹介するかのように続ける。

「彼女からたくさんの事を学んだ」

そんなことない。むしろ私の方が色々と教えてもらってる。

「この先ずっと、彼女と一緒にいたいと思ってる」

え?それってまるで……見上げると相良さんは、まっすぐと墓石を見つめたまま私の肩にキュッと力を入れた。

「父さんに話したけど、クルミちゃんはどうかな?」

へ?

「どうって……?」

「ん?一緒にいたいかどうか、かな」

いつだって一緒に居たい。そんなの決まってるから、相良さんの隣からスッと前に出て墓石の前へ。

「はじめまして。胡桃澤訓歌です。潤季さんとお付き合いさせていただいてます」

普段は呼ばない名前も自然と出てきた。だってそこにお父様が居らっしゃると思うから。

「彼にたくさんの気持ちを教えてもらいました」

幸せな気持ちや気遣う心、なにより愛するという事を。
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