キャンディータフト



「えっ……?」


 言っている意味がわからず、固まったままめぐちゃんを見つめる。

 
(誰と話してるのって……どういう、意味……?)


 困惑したまま視線を目の前へと移してみると、悲しそうに小さく微笑む大ちゃんがいる。


「私達、もう浩一の家に行くから。終わったら来てね。……それじゃ、後でね」


 沈黙したまま静かに佇んでいる私達にそう告げると、少し心配そうな顔を見せるめぐちゃん。教室を出て行こうとするも、一度立ち止まって振り返ると何か言いたげな顔をして私達を見ている。
 それでも、結局何も言わずに少し悲しげな表情を浮かべためぐちゃんは、そのまま黙って背を向けると静かに教室を後にした。

 ずっと黙ったままめぐちゃんを見送った私は、ゆっくりと首を動かすと目の前の大ちゃんへと視線を移した。
 相変わらず悲しげな表情を浮かべるばかりで、何も話そうとしない大ちゃん。そんな大ちゃんに向けて、私は小さく震える声を出した。


「……っ、大ちゃん。誰と話してるのって……どういう意味、だろ……?」


 カタカタと震え始めた両手をキュッと握り締めると、答えを求めて大ちゃんを見つめる。
 そんな私から視線を逸らすと、黙ったまま俯いてしまった大ちゃん。その姿を前に、再び私の中で芽生え始めたぬぐいようのない不安感。

 その行き場のない不安感に押し潰されそうになりながらも、私は大ちゃんに向けて小さく震える右手を伸ばした。



 ────!!?



「…………えっ?」


 確かに大ちゃんに触れたはずの私の右手は、そのまますり抜けるようにして宙を舞った。


「なん……、で……っ?」


 驚いた私は、自分の右手をただ呆然と眺めた。


「……ごめん。ひよ、ごめん……っ」


 私のすぐ目の前から聞こえてくる、か細く震える悲しげな声。その声に反応してゆっくりと視線を上げてみると、私を見つめている大ちゃんと視線が絡まる。
 その瞳からは大粒の涙が流れ、とても辛く悲しそうな顔をしている。


「ずっと……待たせてごめん」


 泣きながら謝る大ちゃんの姿を見て、まるで心臓を貫かれたかのような痛みが私の胸を襲う。


「俺……っ、ずっとひよの事探してたんだ……」


(そんな訳、あるはずがない……っ)


 座っていた椅子からゆっくりと立ち上がると、私はカタカタと震える身体で一歩後ずさった。

 
(嘘……っ、嘘……っ!!)


「まさか、学校にいるとは思わなくて……。ずっと一人で待たせて、ごめんね」


 そう告げると、涙に濡れた顔で悲しそうに微笑んだ大ちゃん。

 目前に掲げた震える自分の両手を眺めると、私は今日あった出来事を一つ一つ思い返してみた。
 先程めぐちゃんに言われた言葉。音楽室で不思議そうな顔をしていた瞳ちゃん。タイムカプセルを開けた時の、皆んなの笑顔と会話。
 そして、初めから感じていた違和感。

 そう──。
 私は大ちゃん以外の人と目も合わせていなければ、会話すらしていなかった。

 チラリとすぐ横の窓に視線を移してみると、外はもうすっかりと陽が落ち、教室の灯りでまるで鏡のように私の姿を映し出している窓硝子。


(ああ……、そうだったんだ……っ)


 高校生になった話。廃校の話。タイムカプセルを掘り起こす話。大ちゃんから聞かされるその話は、どれも私にはよくわからなかった。
 窓硝子に映し出された自分の姿を見て、その理由がようやくわかった。

 とても高校生とは思えない程の幼顔で、涙を流しているセーラー服姿の小さな自分。私はそんな自分の姿を前に、悲しげな表情を浮かべると小さく微笑んだ。

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