キャンディータフト
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幼い頃から心臓の弱かった私は、よく入退院を繰り返していた。
そんな中、中学に上がる前に本格的に具合が悪くなってしまった私は、ついに長期入院を余儀なくされた。
海外での手術を待つ間、島に唯一ある病院で入院できた事は私にとっては嬉しい事だった。
小さな頃からお世話になっていたお医者さんと看護師さんに安心し、何より、皆んなと直ぐに会える距離にいられる事がとても嬉しかった。
毎日のようにお見舞いに来てくれる皆んなは、その日学校であった出来事を私に話し聞かせてくれた。退屈しないようにと、瞳ちゃんはたくさんの本を持ってきてくれた。
皆んなが学校へ行っている間は本を読んで過ごし、読み掛けのページには大ちゃんから貰った栞を挟む。私はそんな毎日を過ごしていた。
皆んなが中学校へ通い出すようになっても、私はまだベッドの上で過ごす毎日が続いていた。
そんなある日、私が泣きながら学校へ行きたいと伝えると、タイムカプセルを一緒に埋めようと皆んなが提案してくれた。
『いつまでも皆んな一緒だよ』
そう言ってくれて、凄く嬉しかったのを覚えている。
大ちゃんから聞かされる学校生活はとても楽しそうで、私はまだ行った事のない中学校にワクワクとしながら、話を聞いているだけでまるで自分もその場にいるかのような気分になった。
タイムカプセルを埋めた大きな桜の木は、春には満開の花が咲きとても綺麗だと大ちゃんから聞かされた。
『いつか一緒に見ようね』
そんな約束もした。
(早く大ちゃんと一緒に学校へ通えますように……)
病室に飾ったまま、まだ一度も着た事のないセーラー服を眺めては、セーラー服姿で大ちゃんの隣に並べる事を毎日のように願った。
夏休みに入り、お父さんの仕事の都合で大ちゃんが転校すると聞かされた時には、私はショックで号泣してしまった。
『離れたくない』
そう言って泣く私に、大ちゃんはそっと優しく抱きしめてくれると「冬休みには絶対に会いにくるから」と約束をしてくれた。
引っ越し前日。一人で病室へとやって来た大ちゃんは、そっと私の手を握ると口を開いた。
『ひよ。俺が医者になってひよの病気治してあげるから。……だから、絶対に負けちゃダメだよ』
その言葉を聞いて、私は涙を溜めながらも笑顔で頷いた。
そんな私の返事に満足したのか、優しく微笑んだ大ちゃんは病室を去ろうと立ち上がった。そんな大ちゃんの腕を震える手で掴んで引き留めた私は、涙を流しながら口を開いた。
『大ちゃん……っ。もし、私が死んじゃったら……。絶対……っ、絶対に会いに行くから……っ! だから……、その時は私を見つけてね』
そう懇願すると、途端に顔を歪めた大ちゃんは私をキツく抱きしめた。
『ひよ……っ、そんな事言わないで。大丈夫、絶対に大丈夫だから……っ』
そう言って私の肩を涙で濡らした。
──それからの私は、冬休みに大ちゃんと再会するという約束を楽しみにして過ごした。
それでも、私の気持ちとは裏腹に体調は益々悪化してゆくばかりで、十一月に入る頃にはついに皆んなとも面会する事ができなくなってしまった。急激に弱ってゆく身体に苦しみながらも、私はただ、大ちゃんに再会できる事だけを願って毎日を過ごした。
そんな私が突然の大きな発作に襲われたのは、まだ冬休み前の十二月のことだった。
急に病室内が慌ただしくなり、先生や看護師さん達の焦る顔が視界の端に映る。
泣いているお父さんとお母さんが病室から外へと出される姿──そんな光景が、やけに鮮明に視界に入ってくる。
朦朧とする意識の中、私は大ちゃんを想って一筋の涙を流した。
(まだ死ねない……っ。あともう少し頑張れば……、大ちゃんに会える)
そう強く思いながらそっと瞼を閉じると、私の意識はそこでプツリと途絶えた──。
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幼い頃から心臓の弱かった私は、よく入退院を繰り返していた。
そんな中、中学に上がる前に本格的に具合が悪くなってしまった私は、ついに長期入院を余儀なくされた。
海外での手術を待つ間、島に唯一ある病院で入院できた事は私にとっては嬉しい事だった。
小さな頃からお世話になっていたお医者さんと看護師さんに安心し、何より、皆んなと直ぐに会える距離にいられる事がとても嬉しかった。
毎日のようにお見舞いに来てくれる皆んなは、その日学校であった出来事を私に話し聞かせてくれた。退屈しないようにと、瞳ちゃんはたくさんの本を持ってきてくれた。
皆んなが学校へ行っている間は本を読んで過ごし、読み掛けのページには大ちゃんから貰った栞を挟む。私はそんな毎日を過ごしていた。
皆んなが中学校へ通い出すようになっても、私はまだベッドの上で過ごす毎日が続いていた。
そんなある日、私が泣きながら学校へ行きたいと伝えると、タイムカプセルを一緒に埋めようと皆んなが提案してくれた。
『いつまでも皆んな一緒だよ』
そう言ってくれて、凄く嬉しかったのを覚えている。
大ちゃんから聞かされる学校生活はとても楽しそうで、私はまだ行った事のない中学校にワクワクとしながら、話を聞いているだけでまるで自分もその場にいるかのような気分になった。
タイムカプセルを埋めた大きな桜の木は、春には満開の花が咲きとても綺麗だと大ちゃんから聞かされた。
『いつか一緒に見ようね』
そんな約束もした。
(早く大ちゃんと一緒に学校へ通えますように……)
病室に飾ったまま、まだ一度も着た事のないセーラー服を眺めては、セーラー服姿で大ちゃんの隣に並べる事を毎日のように願った。
夏休みに入り、お父さんの仕事の都合で大ちゃんが転校すると聞かされた時には、私はショックで号泣してしまった。
『離れたくない』
そう言って泣く私に、大ちゃんはそっと優しく抱きしめてくれると「冬休みには絶対に会いにくるから」と約束をしてくれた。
引っ越し前日。一人で病室へとやって来た大ちゃんは、そっと私の手を握ると口を開いた。
『ひよ。俺が医者になってひよの病気治してあげるから。……だから、絶対に負けちゃダメだよ』
その言葉を聞いて、私は涙を溜めながらも笑顔で頷いた。
そんな私の返事に満足したのか、優しく微笑んだ大ちゃんは病室を去ろうと立ち上がった。そんな大ちゃんの腕を震える手で掴んで引き留めた私は、涙を流しながら口を開いた。
『大ちゃん……っ。もし、私が死んじゃったら……。絶対……っ、絶対に会いに行くから……っ! だから……、その時は私を見つけてね』
そう懇願すると、途端に顔を歪めた大ちゃんは私をキツく抱きしめた。
『ひよ……っ、そんな事言わないで。大丈夫、絶対に大丈夫だから……っ』
そう言って私の肩を涙で濡らした。
──それからの私は、冬休みに大ちゃんと再会するという約束を楽しみにして過ごした。
それでも、私の気持ちとは裏腹に体調は益々悪化してゆくばかりで、十一月に入る頃にはついに皆んなとも面会する事ができなくなってしまった。急激に弱ってゆく身体に苦しみながらも、私はただ、大ちゃんに再会できる事だけを願って毎日を過ごした。
そんな私が突然の大きな発作に襲われたのは、まだ冬休み前の十二月のことだった。
急に病室内が慌ただしくなり、先生や看護師さん達の焦る顔が視界の端に映る。
泣いているお父さんとお母さんが病室から外へと出される姿──そんな光景が、やけに鮮明に視界に入ってくる。
朦朧とする意識の中、私は大ちゃんを想って一筋の涙を流した。
(まだ死ねない……っ。あともう少し頑張れば……、大ちゃんに会える)
そう強く思いながらそっと瞼を閉じると、私の意識はそこでプツリと途絶えた──。