キャンディータフト
窓硝子に映し出されたセーラー服姿の自分を見つめながら、私は念願だった制服のリボンにそっと指で触れてみる。
(なんで気付かなかったんだろう……)
いや──本当は気付いていたのかもしれない。それでも、認めたくなかった私は無意識に真実を見ようとはしていなかった。
長い間一人で大ちゃんを待ち続けている間に、私の記憶はどんどん曖昧になっていった。大ちゃんに会いたい──その強い気持ちだけを残して。
そんな時、突然目の前に現れた大ちゃん。私はその状況をただ喜び、大ちゃんが話す事だけを信じた。
ずっとこのまま大ちゃんと一緒にいたい。そんな想いから、真実から目を背け続けていたのだ。
ようやくその事実に気付いた私は、忘れていた全ての記憶を取り戻すことができた。けれど、それはとても受け入れ難い事だった。
私は悲しみにそっと目を伏せると、真実と向き合う覚悟をする。
──四年前の冬、私は死んだのだ。
窓硝子から大ちゃんへと視線を移すと、私は涙を流しながらも微笑んだ。
「……大ちゃん。私ね、どうしても大ちゃんにセーラー服姿見せたかったの」
「うん……っ、似合ってるよ。凄く可愛い」
そう言って、涙を流しながらも優しく微笑んでくれる大ちゃん。そんな姿を見て、約束を守れなかった事にチクリと胸が痛んだ。
冬休みに会いに来てくれると約束したのに、私はその約束を果たせなかったのだ。
「ごめんね、大ちゃん。私……やっと全部思い出したよ。約束、守れなかった……。私、頑張れなかったよ……っ」
次から次へと流れ出る涙を拭いながら懸命に伝えると、大ちゃんは自分の頬に流れる涙を拭いながら咽び泣いた。
「ひよは頑張ったよ……っ。凄く……っ、頑張ったよ」
泣きながらも懸命に笑顔を作ってくれる大ちゃん。そんな姿を見て、大ちゃんの優しさを感じて胸が熱くなってくる。
(大ちゃんを好きになって良かった……)
本当に、心からそう思えた。
「大ちゃん……。見つけてくれてありがとう……っ」
「……っ、……」
「……私ね。ずっとずっと……、小さい頃から大ちゃんが好きだったよ」
涙を流しながらも、大ちゃんに向けて精一杯の笑顔を見せる。
(やっと気持ちを伝えられた──もう、これで思い残す事はない)
「ひよ……っ。俺もずっと……、今でもひよが大好きだよ」
大ちゃんから告げられたその言葉が嬉しくて、私の瞳からは止め処なく涙が溢れてくる。
「ずっと側にいてあげたかった……っ。ひよに触れたいよ……っ、もう一度抱きしめたい」
咽び泣く大ちゃんを前に、私は涙を流しながら嗚咽した。
「だいっ、ちゃ……っ」
そんな私を目にした大ちゃんは、そっと私に近寄ると口を開いた。
「ひよ……ずっと忘れないよ。──大好き」
私の頬を包み込むようにしてそっと手を添えた大ちゃんは、優しく微笑むとゆっくりと瞼を閉じた。
(大ちゃん……本当に大好きだよ。大ちゃんに出会えて良かった。私、凄く幸せだったよ──)
近付く大ちゃんの姿を視界に捉えた私は、そっと瞼を閉じると静かにそれを受け入れた。