暖かく、切なく・・
ページ・1
春・・始まりの季節。

新しい住まい、新しい通学路、新しい学校、そして新たな出会い。

すべてが新しい日々の始まり。

今日から私、春野彩音は高校生になりました。

ー学校体育館(入学式)

「おはようございます。私立星ノ空学園校長の堤下です。今日から皆さんはこの私立星ノ空学園の生徒です。高校生活を思う存分楽しんでください。沢山の仲間と素敵な思い出を作って、悔いのない高校生活を送ってください。以上。」

周りを見渡すと知らないひとばかり。
友達ができるかすごく不安でいっぱいで胸が張り裂けそうだ。
親の転勤で静岡から東京へ越してきたばかりだから知り合いなんて一人もいない。
転勤は中学三年生の夏ごろからわかっていたので高校受験は東京高で受けることにした。
無事に第一希望だった私立星ノ空学園に合格することができて、今日から私の新しい学園生活が始まる。

「それではみんな、教室に戻るからちゃんと並んで列から外れないように先生についてきてください」

なんだかこの短時間で少しずつグループができているように感じるのは私だけだろうか?
なんとなく雑誌やテレビで今どきの高校生についてリサーチはしていたつもりなのだが、やはりついていくのは難しい。同い年とは思えないばっちりメイク、茶髪、ネイル。私にはどれも新鮮に感じる。地味気味な私のほうが何故か目立つ。

「みなさん。席は出席番号順になっているから座って待っててください」

私の席は窓際の一番後ろ。
一番後ろならあまり目立つことなく学校生活がおくれる。

「隣、いいかな?」

横をみると、サラサラした黒髪の短髪生徒がこちらをみて笑顔で話かけてくる。

「おれ、降谷晴樹。よろしくね」

「わっ・・私は春野彩音。よろしく」

「春野彩音さん。いい名前だね」

彼はこの学校で初めて言葉を交わした人。
自分からうまく話すことができない私にとってすごくありがたい出来事だ。
隣の人が彼でよかった。ただ・・なぜか周りから視線を感じるのがなんとなく伝わってくる。

「それでは、ホームルームを始めます!担任の浅香友梨佳です。今日から一年間よろしくお願いします。」

担任の浅香友梨佳先生。見た目はしっかりした感じだ。笑っているときはキリッとした感じとは真逆にクシャっとした可愛らしい笑顔になる。

「これから一人ずつ自己紹介してもらいます!名前とこれからお世話になるクラスのみんなへの一言を順番にお願いします。まずは一番まえのドア側の君からどうぞ」

一人ずつ自己紹介がはじまる。
自分の順番が近くなるにつれて緊張が大きくなる。

「俺は降谷晴樹。目標は友達100人ですかね!これからよろしくです」

いつの間にか隣の人にまで順番がきていた。
そして、一番最後の私に順番が回ってきた。

「はっ・・春野彩音です。一年間よろしくおねがいします」

とっさに席に座った。
思った以上にクラスみんなへの言葉が出てこなかった。
とっさに座席に座ってしまって感じ悪くなかっただろうか?

「春野さんって結構人見知り?」

隣の席の降谷くんが声をかけてきた。

「はい・・。東京へきてまだそんなに時間もたってなくて。中学時代あまり人とうまく関われなくて・・友達いなくて・・」

「そっか!じゃー、今日から俺が春野さんの一人目の友達ね!」

「えっ・・・?いっ・・いいんですか?わっ・・私なんか・・」

いきなりすぎて少し戸惑った。

「もちろん!俺、自己紹介で言ったでしょ?目指せ友達100人って!だから、今日から俺と春野さんは友達」

彼の笑顔はまぶしく、なによりも彼の言葉がとても嬉しかった。
初めての友達の名前は・・・降谷晴樹くん。
なんだかちょっぴり明日からの高校生活が楽しみになってきた。

ーお昼休憩

「春野さん、お昼いっ・・」

「ねぇー、降谷くん!私たちと一緒にお昼食べない?」

「えーっと・・」

何故か女子に囲まれている降谷君。

なんとなくだが私は気づいた。周りから感じる視線はほとんどが女子生徒。
きっと降谷君が気になる女子たちだ。


「おーい!降谷!!一緒にお昼食べよーぜ!」

教室の扉から声が聞こえた。

「ごめんね。俺、今日は幼馴染とお昼たべる約束してるから。誘ってくれてありがと。また今度ね」

そういって降谷君は教室を後にした。
教室まできた違うクラスの生徒は降谷君の幼馴染だったらしい。


ところで降谷君はいったい私になにを言いかけたのだろうか・・?



私は降谷君以外と話した人はいなく。当たり前だがお昼を一緒に食べる友達はまだいない。
降谷君のいない教室は多少だけども窮屈に感じる。

「とりあえず校内をまわってみようかな・・・」

私は校内を歩き回った。食堂、体育館、屋上・・・
まるでお散歩気分でちょっぴり気持ちがリフレッシュした。

残り時間あと15分でお昼休憩がおわる。

「そろそろ戻ろうかなぁ」

教室に戻る途中、どこからかピアノの音が聞こえた。
その音に誘われるかのように私の足はピアノの音が聞こえるほうへ歩き始めている。

「なんて素敵な曲なんだろう・・」

ん・・・?
気がついたら知らない教室の前に立っていた。
誰が弾いているのだろうか?
しばらく立ち聞きをしていたが・・気になって仕方がなく、ゆっくりと扉を開けると・・茶髪の男子生徒がピアノを弾いていた。
その表情はどこか切なく・・

ーピアノの音が止まる

「ん・・?君は?」

突然声を掛けられ戸惑ってしまった私はその場で立ち止まってしまう。

「もしかして・・新入生?」

「はっ・・はい!」

声が裏返ってしまいとても恥ずかしかった。
そんな私を見て茶髪の男子生徒はこちらに近づいてくる。

「三年生の白井優。君は?」

「わっわっ・・私は、一年生の春野彩音です」

うまく話せなくて恥かしい。なぜこんなところまで来てしまったのだろうか。
あのままおとなしく教室に戻っていたらこんなことにはならなかった。

「もしかしてピアノの音をきいてここへ?」

彼の質問があまりにもストライクすぎて言い訳すら思い浮かばなかった。

「はっ。は・・い。あまりにも素敵な曲だったので・・つい・・ごっ・・ごめんなさい」

「素敵な曲・・か」

ゆっくり顔をあげ目の前にいる彼の顔をみた瞬間・・・

「な・・い・・て・・」

「違うよ」

彼の眼は赤くなっていて泣いたのがわかるくらいに少し腫れていた。
なにかあったのだろうか?

「あ・・あのぉ・・」

「君、教室に戻らなくていいの?もうすぐ時間だけど・・」

我に返った。
時計を見ると残り時間あと3分。
急いで教室に戻らなければ。

「すっ・・すみません。教えてくれてありがとうございました。失礼します」

私は知らない教室を後にした。


ギリギリ教室にたどり着き席に座る。

「春野さん。お昼どこかいってたの?」

降谷君が話しかけてきた。

「ちょっと校内を散歩してたよ。降谷君は?」

「俺は幼馴染とお昼食べて話してた。さっき春野さんをお昼に誘おうとおもってたんだけど・・邪魔が入っちゃって。ははは」

「さっき言いかけたことってそれだったの?」

「そうだよ!俺の幼馴染も紹介したくてさ!良いやつだから今度紹介する」

降谷君は優しい。
私はいい友達が一人できたなと改めておもった。

窓の外を見ると空がとても綺麗でまぶしい。

「・・・・」

なぜか思い出すのは・・ピアノを弾いていた先輩。

「白井・・優・・・」

彼の切なそうな顔が頭から離れないのだ・・・。


あれっ・・?なんで気になるんだろう・・?
















< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop