キミのことは好きじゃない。
Friend:Ⅲ
「さっきから、ずっとバイブ音うるさいんだけど?」
隣のデスクの湯山さんが、溜め息をつきながら私の携帯を指差した。
「すみません」
携帯のバイブに気づかない訳じゃない。これが多分颯斗からだと分かるから出ることができないだけ。
あの日、私は颯斗が目を覚ます前にあの場所から逃げた。
本当は目を覚ました颯斗が自分を責めたりしないように、私が悪いのだからと……もし私達の間に何かあったとしても、それは事故だと、だから忘れようと……そう話すつもりでいた。
いたけれど、でも急に怖くなった。
目を覚ました颯斗が、私にどんな目を向けるのか、私と同じように……ううん、同じなんかじゃない。私は事故だとしても、初めての相手が颯斗であったことを後悔したりしない。
後悔しているのは、あの夜のことが颯斗を傷つけてしまうこと。
初めてできた彼女との未来に、引っ掻き傷みたいに小さな傷をつけてしまったこと。
そう、引っ掻き傷みたいなものだ。
ううん、颯斗にとっては汚れ程度のものなのかもしれない。
私がこんなに気にするほど、颯斗は気にしていないのかもしれない。
……それはそれでキツイ、な。