キミのことは好きじゃない。



山中が言っていたいつもの店、それは私達が通っていた高校と同じ駅近くにあった。つまりは私達の地元。


大学から家を出た私は、こんな風に山中と飲みの約束をした時だけ実家に帰っていた。


終電を気にせず飲みたいし、実家の両親の顔を見るのにも丁度よかったから。


「じゃあ、行ってくるね」


見送りに出てくれた母に手を振って家を出る。


専業主婦の母はいつも私達家族の健康を第一に考えてくれる。飲みに行った翌日の朝は必ずしじみ汁を用意してくれたり。


父親は地元の高校で教師をしている堅物な人間だけど、1人娘には甘い父親だ。


見送りに出ていた母の隣から「店まで送ってやろうか?」なんて、徒歩15分の距離ですら送る気満々だ。


それを断って2人に背を向けて歩き出す。


変わらない地元の景色を見ながら歩くのも嫌いじゃない。まぁ、夕方になっても暑いのは辛いけど。


自転車で通っていた高校までの道。


颯斗は駅向こうに住んでいて、私の家とは逆方向だから、通学途中に会うことはなかった。


それはそれで少し寂しかったな。
一緒に帰る高校生の彼氏彼女を見て羨ましく思ったこともあったっけ。





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