キミのことは好きじゃない。


「百合、悪い遅くなった!」


自分に向けられた声に振り返れば、居酒屋の入り口に慌てて駆け込んできた様子の颯斗を見つけた。


焼き鳥の煙とタバコの煙に視界が曇る視界の向こうに笑顔で近づいて来る颯斗に軽く手を挙げて答える。


「先に始めてたよ」


半分位は減ってしまったビールジョッキを掲げた。


背広を脱ぎ、私が腰掛けるカウンターの隣の椅子の背にそれを掛けて座るやいなや、颯斗は中に向かって『キンキンに冷えた生ひとつ!』と声をあげた。


「急に入った仕事は片付いたの?」


隣でおしぼりで顔を拭く颯斗に苦笑いしながら尋ねた。


「終わらせてきたに決まってる。じゃなきゃビールが不味くなるだろが」


ニッと笑った口元から八重歯が覗く。
最近暑くなったからとショートモヒカンにした颯斗はまるで学生時代に戻ったみたいに若く見えた。


「確かにね」


お酒は美味しく飲む。がモットーの颯斗はお酒の席で仕事の愚痴は言わない。








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