眠り姫は夜を彷徨う
「え?彼女っ?」

圭は思わぬ言葉に目を丸くした。

「あの妙に真面目そうなコだよ。三つ編み眼鏡の」

両手で二つ丸く輪を作って眼鏡のように顔に当ててこちらを覗いて見せる友人に。

そこまで言われて、やっとそれが紅葉のことを言ってるのだと理解した。

「ああ。紅葉は幼馴染みだよ。家が隣同志なんだ」

「おさななじみ?」

「うん」

「ただの?」

「ん?…うん。まぁ…」

すると友人は口を尖らせて、いかにも不服そうな顔をした。

「何だ、つまらん」

「つまらんって…」

(何を期待してるんだか)

そう思いながらも、ははは…と乾いた笑みを浮かべる。

「まあなー、お前の好みがあーいうタイプなのかってちょっとびっくりしてた位だし。そうだよなー、流石に違うよなー」

勝手に納得している。

そこへやっと担任が教室へと入って来て皆がバタバタと席に着いた。

その友人も慌てて前へと向き直る。

そんな様子を静かに見つめながら、圭は頬杖をついた。


(好みのタイプ…ね)


好き放題言ってくれるものだ、と小さく溜息を吐く。


幼馴染みの紅葉は、確かに学校では如何にも冴えない感じの女の子だ。

良く言えば『真面目』そう。

悪く言えば『地味』とも言える。

でも、それがただのフェイクであることを皆は知らないのだ。


(実際、知らなくていい。誰も…。僕以外は…)


自分は紅葉程に美しい人を今まで見たことがない。

こればかりは主観によるものだが、それ程に自分は紅葉に長い間心惹かれていた。
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