眠り姫は夜を彷徨う
それでも、これを越えていくには少しばかり手間が掛かる。流石に眠っているままでは簡単にとまではいかないだろう。

(それで外に行くのを諦めてくれたらいい)

自分のことながらも、それが狙いだ。

何か非常事態に陥るようなことがあったら逃げ遅れてしまいそうでちょっと怖いけれど。でも、そうそうそんな物騒なことは起こらないと信じたい。

(こんなのでも、無いよりはきっとマシな筈…だよね)

あとは、この障害物を退けてしまう程に自分の夜の行動力がないことを祈るだけだ。

もう、眠気には勝てそうにないから。


紅葉は小さく息を吐くと、ベッドへと倒れ込んだ。

何をするでもなく、白い天井をぼーっと見上げる。


(結局、今日は圭ちゃんと話は出来なかったな…)



放課後。少しだけ、隣のクラスが終わるのを待っていた。

人の邪魔にならない廊下の端で、圭ちゃんが教室から出て来るのを待ち伏せしていたのだ。

この間言ったことを謝りたくて。そして、今までの沢山のありがとうを伝えたくて…。

だけど、教室から出て来た圭ちゃんの横には、今日も磯山さんがいて。圭ちゃんの腕に腕を絡めて歩くその二人の親密な様子に、その場から出て行くことが出来なかった。

(圭ちゃん…)

途端にズキズキと痛み出す胸の奥。紅葉は、片手を胸の前で握りしめ、壁に手を付き必死に痛みをやり過ごしていた。

そうして、そのまま…。二人が並んで歩いて行くのを遠くから見送っていた。


あの痛みが何なのか、自分では分からなかったけれど。

圭ちゃんがあまりに遠すぎて…。

磯山さんの隣を歩く圭ちゃんは、何だか自分が知っている圭ちゃんとは別人のように見えた。
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