眠り姫は夜を彷徨う
桐生の前には、如何にも悪人面の人相の悪い集団が群れになって歩いている。何をするでもなく歩いているだけなのだが、帰宅途中の通りすがりの人々は恐れ、避けて通る程だった。

その内の一人が桐生を振り返りながら声を掛けてくる。

「若、本当にその…掃除屋って奴は来やがるんスかね?」

「わかんねぇ。でも、こうして溜まってれば出会う確率は断然上がる筈なんだ。ワリィな、門脇…。くだらねぇことに付き合わせちまって」

すると、門脇と呼ばれた男は一瞬だけ驚いたように目を見張ったが、すぐに表情を緩めると笑顔を見せた。

「いや、そんな水臭いこと言いっこナシですよ。オレらで若のお役に立てるってんなら本望ってやつですよ」

皆にも「なっ?」と同意を求めるように声を掛ける。すると、二人の会話を聞いていた他のメンバーたちも皆口々に「そうですよ」と桐生に笑顔を向けた。


実は彼らは皆松竹組の組員だ。門脇は組の若い衆の中でも一番の古株で、皆を纏める役割を担っている。その門脇を筆頭に、数人の若い組員たちの協力を得て、その辺にいるチンピラ同様に掃除屋をおびき出す作戦だ。

最初から話をする気で近付いても毎回逃げられてしまうので、皆には敢えて掃除屋が近付いてきたら絡むように言ってある。松竹組は普通、そんなくだらない絡みや争いは絶対しないし、好まないが掃除屋と向き合う為に演じて貰うことにしたのである。

我ながら良い作戦だと思う。だが、皆に協力を仰いでいる分、今夜どうしても決着をつけたいところだ。

(来いよ、掃除屋。今日こそ、その面拝ませて貰おうじゃねぇか)

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