眠り姫は夜を彷徨う
それから、一時間程経過した頃。

桐生たちは予想外の事態に巻き込まれていた。


掃除屋が現れるのを待ちながら桐生たちが人通りの少ない裏通りへと何気なく足を踏み入れると、そこには思わぬ先客がいた。それは、どこにでもいるような若い不良集団だったのだが、その内の一人が桐生の中学時代の同級生だった。

その男は、当時から校内で一二を争うワルで、家が極道である桐生とは何かとぶつかることが多かった。だが、決闘だ何だと絡んで来ることはあっても結局勝つのはいつも桐生で、相当悔しい思いをしていた。

そんな因縁もあり、男はここぞとばかりにまた絡んで来た。相変わらず懲りない奴である。


「ここでお前を潰せば、実質松竹組は半分力を失ったも同然だよなっ。今じゃすっかり大人しくなっちまったって話じゃねぇか。この機会にこの俺らの名を上げさせてもらうぜっ」

「ハッ馬鹿にすんじゃねぇよ。そこらのチンピラに簡単にやられるかっての」

そんな言葉を皮切りに、集団での乱闘が始まってしまったのだ。


(何だってこんな時に。こんな雑魚お呼びじゃねぇんだよっ)


人数だけで見れば明らかにこちらが不利な状況だった。こちらは自分を入れて七人。だが、向こうは十三人程いた。

それでも、こんな奴らに組を見下されて黙っている訳にはいかない。組の若い衆にとっても、それは同意見だった。

皆腕っぷしは強い方だ。だが、向こうもそれなりに場数を踏んでいるようだった。それでも数人を倒し、こちらが優勢になってきた時だった。


「くそっ!なめてんじゃねぇぞっ!」


そう言って向こうの数人が取り出したのは、どこかに隠し持っていた鉄パイプや刃物だった。
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