眠り姫は夜を彷徨う
夜遅くにフラフラと一人歩き回る少女の姿は流石に人の目を引く。

何より、この周辺は昔から治安が悪く、様々な事件や被害報告が出されていて自治体をはじめとした付近の学校などでも、それらの被害から子どもたちを守るとの名目で地域パトロールなどを強化してきた。

そんなパトロール要員たちに度々目撃された紅葉の姿は、ちょっとした噂になってしまった程だった。

通常大人たちに見つかれば、そのまま保護されることになる。

だが、紅葉は一度足りとも保護されることはなく、身元が割れることもなかった。

何故なら…。

追い掛けると逃げるのだそうだ。そして皆が煙に撒かれたかのように、その姿を見失ってしまうのだという。

だからこそ、その少女がいったい誰なのか。何者なのか。色々な憶測を呼び、噂が広がっていったのだ。



「どうしよう、圭ちゃん」


当時、紅葉は心底困った様子だった。

それは当然だ。まさか、巷で噂になっている人物が自分だなんて思ってもみなかったんだろう。

何しろ記憶がないのだ。本人は眠っているのだから。

たまたまフラフラと外へ出て行く紅葉を僕が見つけたことで、それが発覚したのだけなのだ。


「どうしようって言っても…。紅葉の夢遊病は今に始まったことじゃないしね…。治せるならとっくに治してるもんね?」

「うん」

「それこそ、家のドアを開けて出て行けないように何かで厳重に固定するか…。紅葉自身を固定するしかないんじゃないのかな?」
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