眠り姫は夜を彷徨う
(あれは…全部嘘じゃなかったってことか)

自分に向けられたものも正体を隠す為の偽りの笑顔などではなかったのだと分かり、桐生は内心でホッとしていた。

それは彼女の全てに関して言えることだ。

自らの意思で掃除屋をやっていたのだとしたら、毎晩のように追って来る自分にも当然気付いていて、その上で逃げ回り、正体を隠し、学校では知らん顔して普通に接していたことになるからだ。

そんなこと、考えたくもない。

どんな事情や理由があるにしても、平気で人を欺けるような奴であって欲しくなかった。それが、勝手にアイツに対して持っていた自分のイメージや願望だったとしても。


「ん?でも…待てよ?それって、そもそも如月本人は何も覚えてないってことか?」

夜の街を彷徨っていることは勿論、掃除屋として悪い奴らを排除して回っているのが自分であることも…?

「そう…ですね。そういうことなんだと思います。出歩く癖があること自体は長年のことなので自身で把握しているとは思いますが。ただ、掃除屋としての行動については、あまりに特殊なので…。そこに彼女のどういう潜在意識が働いているのかは謎ですよね」

「潜在意識、ねェ。アイツ、そういうタイプに全然見えねぇもんな。実際にこの目で見たって未だに信じられねぇ位だし」

「ホントですよ。いったい何者なんだっていう位、めちゃくちゃ強いし。…っていうか、京介さん。俺、そもそも前に見た掃除屋の素顔と、その…眼鏡の如月さん自体が上手く繋がらないんですけど…」

今まで真面目な顔で淡々と報告をしていた立花が、途端に情けない顔を見せる。
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