眠り姫は夜を彷徨う
「あーまぁ、言いたいことは分からなくもねェよ」

何しろ、学校での如月は三つ編み眼鏡であんなだし。どちらかというと、おっとりした雰囲気で多くの敵に立ち向かっていくような勇ましさなど微塵も感じさせない。

(ああ、でもアイツ。反射神経はすこぶる良かったんだよな)

何度か見た限りで、かなりの運動能力の高さは見て取れた。でも、それだけだ。まさかあんな飛び抜けた格闘センスを持ち合わせていて、更に逃げ足も早いだなんて普通は想像すらつかないだろう。

「京介さんは何で彼女の素顔を知ってるんですか?っていうか、元は何がきっかけで知り合ったって言ってましたっけ?」

「ああ、保健室だよ。いつも通り昼寝しに行ったら、たまたま如月が寝てたんだよ。そん時、オレは眼鏡も何も掛けてないアイツを見てるからな」

「へぇー」

立花は目を丸くしている。

「オレの場合は、眼鏡なしの方が最初だったから、アイツが教室に戻る時にすげぇダサい眼鏡掛けて出て行くところを見て、思わずそのギャップにぎょっとしたんだよな」

思い出すだけで笑えてしまう。

「衝撃だったぜ。あれは…」

すると、今まで興味津々に話を聞いていた立花がニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

「解りました。だからですね?」

「あん?何がだよ?」

「京介さん、あーいう如何にも真面目なタイプの子は苦手だった筈なのに、何故かやたらとあの子に構っていたのは、そういうことだったんですね」

ニコニコと勝手に解釈しているらしい立花に桐生は憮然とした顔を浮かべた。

「『そういうこと』って何だよ?」
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