眠り姫は夜を彷徨う
「第一印象が違かった分、受け入れやすかったのかなっていう意味ですよ」

「受け入れって…。お前なぁ」

そう桐生が言い終わるや否やのところで、突然廊下からバタバタとした足音や誰かが声を張り上げるのが聞こえてきた。

「…何だ?随分と騒がしいな」

その部屋にいる面子で思わず顔を見合わせるが、すぐに門脇が「様子を見て来ます」と席を立った。


「先輩。もしかして、討ち入り…とかじゃないですよね?」

立花が不安に顔を引きつられながら小声で物騒なことを聞いて来るのに対し、桐生は騒ぎに耳を傾けながらも苦笑を浮かべた。

「流石にこのご時世、そういったものはそうそうねェよ。お前、任侠映画の見過ぎだ」


門脇が廊下の襖を開けて顔を出したと同時に、報告に飛んで来た若い組員が慌てて声を上げた。

「大変です、若っ!昨夜連れ帰ったあの子が目を覚ましたんですけどっ…手が付けられませんっ!」


「はあっ!?」


その言葉に再び桐生と立花は顔を見合わせた。




騒ぎの元へと桐生たちが直ぐに駆け付けると、そこには数人の若い組員と、その中央に囲まれて立ち尽くしている紅葉がいた。だが、周囲には彼女を止めようとして既に痛手を食らったのか、尻餅をついたり倒れている者もちらほらと見える。

寝かせていた和室から廊下へと出て、そのまま廊下に面した窓から外へと出たのだろう。庭に裸足のまま降りている。いつも夜の街で見ていたその姿は、今は朝の陽の光に照らされて、また違った雰囲気を醸し出していた。


「如月っ」


廊下から庭を見下ろしながら桐生が声を掛けると。

少女は、ゆっくりとこちらを振り返った。

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