眠り姫は夜を彷徨う
振り返ったその顔は、どこか無表情で。その瞳はまるで知らない者を見るかのような冷たいものだった。
そして、ゆっくりと小さく開かれた口からは抑揚のない呟きが聞こえて来る。
「だ…れ…?」
「………。こりゃあ、まだ目覚めてねぇな」
桐生は歯痒そうに舌打ちをした。
夜、暗い街中で見ていた時とは違い、明るい陽の下だからこそ違いが分かる。
(普段のアイツは、いつだって声を掛ければ明るく笑い返してきて…)
確かに普段、その瞳は分厚い眼鏡で見えないけれど。初めて保健室で出会った時の真っ直ぐに相手の目を見て話す誠実で柔らかな印象は、今でも忘れられず目に焼き付いている程なのだ。初対面であっても、こんな冷えた視線を向けられたりはしなかった。それこそが、彼女が今通常の状態でないことを表しているのだと思った。
そんなことを考えている桐生の横で、立花が呆然としながらも声を上げた。
「先輩、これで本当に眠ってるっていうんですかっ?マジあり得ないんですけどっ」
相当驚いているようだ。が、
「ってか、ソレお前が言ったんじゃねぇか!」
すかさずツッコミを入れる。
「いや、まぁそうなんですけどっ。俺だって聞いた話ってだけなんで…。でも、夢遊病ってこんなんでしたっけ?イマイチ自分の知識と上手く噛み合わないんですけどっ」
「あー…。まぁな」
それは確かにそうだ。眠っている人間がここまで自然に動き回れるというのは、あまりに常識からは逸脱している。だが、如月にとってはそれが紛れもない現実だった。
コイツは昨日寝不足だと言っていた。そして『夜がこわい』のだとも。
話を聞いた今なら解る。コイツは苦しんでたんだ。
そして、ゆっくりと小さく開かれた口からは抑揚のない呟きが聞こえて来る。
「だ…れ…?」
「………。こりゃあ、まだ目覚めてねぇな」
桐生は歯痒そうに舌打ちをした。
夜、暗い街中で見ていた時とは違い、明るい陽の下だからこそ違いが分かる。
(普段のアイツは、いつだって声を掛ければ明るく笑い返してきて…)
確かに普段、その瞳は分厚い眼鏡で見えないけれど。初めて保健室で出会った時の真っ直ぐに相手の目を見て話す誠実で柔らかな印象は、今でも忘れられず目に焼き付いている程なのだ。初対面であっても、こんな冷えた視線を向けられたりはしなかった。それこそが、彼女が今通常の状態でないことを表しているのだと思った。
そんなことを考えている桐生の横で、立花が呆然としながらも声を上げた。
「先輩、これで本当に眠ってるっていうんですかっ?マジあり得ないんですけどっ」
相当驚いているようだ。が、
「ってか、ソレお前が言ったんじゃねぇか!」
すかさずツッコミを入れる。
「いや、まぁそうなんですけどっ。俺だって聞いた話ってだけなんで…。でも、夢遊病ってこんなんでしたっけ?イマイチ自分の知識と上手く噛み合わないんですけどっ」
「あー…。まぁな」
それは確かにそうだ。眠っている人間がここまで自然に動き回れるというのは、あまりに常識からは逸脱している。だが、如月にとってはそれが紛れもない現実だった。
コイツは昨日寝不足だと言っていた。そして『夜がこわい』のだとも。
話を聞いた今なら解る。コイツは苦しんでたんだ。