眠り姫は夜を彷徨う
桐生は裸足なのも気にせず紅葉同様そのまま庭へと降り立つと、周囲を遠巻きに囲っていた組の者達に「あとは大丈夫だから、ありがとな」と、その場を下がらせた。
皆は彼女が制止を振り切って動き出したのをただ止めようとしただけだ。だが、そのことで自分に向かってくる『敵』と認識して暴れたに過ぎないのだろう。
痛手を負ったしまった者には申し訳ないことをしたが、基本的にこちらが争う意思を見せなければ紅葉も向かってくることはないのだと、今までのことで桐生は十分に理解していた。
「如月。オレは桐生だ。…分かるか?」
「………」
彼女の目の前へと歩み出ると、視線はしっかりこちらに向けられているものの、聞いているのかいないのか、とにかく反応がない。その顔はあまりに無表情だった。下手に顔が整っている分、やはり精巧に造られた人形のようだと桐生は頭の端で思ったりしていた。
「何だよ、オレのこと分かんねぇのか?冷てぇんだな」
桐生は苦笑を浮かべると、独り言のように言葉を続けた。
「お前…。そんなんで本当に寝てんのかよ。まったく…。不憫な奴だな」
そのぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、桐生は優しい穏やかな笑みを浮かべる。
「お前、寝不足だって言ってたよな?まだ寝足りねぇんだろうよ。あんな夜な夜な暴れまわって…。そんな風に眠ってまで気ィ張ってたら休まるモンも休まる訳ねぇよな」
そう語りかけている間にも、正面から真っ直ぐに向けられる大きな瞳。それは長い睫毛に縁どられ、やはり美しかったが何処か違っていた。瞳の奥に暗い影を落としているかのような、寂しい色をしている。
(何が、お前をそうさせてんだろうな…?)
皆は彼女が制止を振り切って動き出したのをただ止めようとしただけだ。だが、そのことで自分に向かってくる『敵』と認識して暴れたに過ぎないのだろう。
痛手を負ったしまった者には申し訳ないことをしたが、基本的にこちらが争う意思を見せなければ紅葉も向かってくることはないのだと、今までのことで桐生は十分に理解していた。
「如月。オレは桐生だ。…分かるか?」
「………」
彼女の目の前へと歩み出ると、視線はしっかりこちらに向けられているものの、聞いているのかいないのか、とにかく反応がない。その顔はあまりに無表情だった。下手に顔が整っている分、やはり精巧に造られた人形のようだと桐生は頭の端で思ったりしていた。
「何だよ、オレのこと分かんねぇのか?冷てぇんだな」
桐生は苦笑を浮かべると、独り言のように言葉を続けた。
「お前…。そんなんで本当に寝てんのかよ。まったく…。不憫な奴だな」
そのぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、桐生は優しい穏やかな笑みを浮かべる。
「お前、寝不足だって言ってたよな?まだ寝足りねぇんだろうよ。あんな夜な夜な暴れまわって…。そんな風に眠ってまで気ィ張ってたら休まるモンも休まる訳ねぇよな」
そう語りかけている間にも、正面から真っ直ぐに向けられる大きな瞳。それは長い睫毛に縁どられ、やはり美しかったが何処か違っていた。瞳の奥に暗い影を落としているかのような、寂しい色をしている。
(何が、お前をそうさせてんだろうな…?)