眠り姫は夜を彷徨う
こんなうら若い乙女のなりして大した度胸だと思う。

まぁ、実際はこれでも眠っているというのだから相手からのプレッシャーなど感じようもないのかも知れないが。だが…。

「それにしても凄いな。これは奇跡だ…」

立花は誰に言うでもなくポツリ…と呟いた。


掃除屋が、まさかこんなにも美しくて儚げな少女だったなんて。

確かに遠目でだが一度自分は彼女の顔を見ている。暗がりでも整った顔立ちをしていることだけは分かっていた。だが、それでも想像以上だった。『掃除屋』として軽々と男たちを伸していく、その強靭さなど微塵も感じさせないその姿。

そして、何より驚きなのが…。

この少女がまさかあの眼鏡娘の素顔だなんてっ!

(まさに『実は眼鏡をはずすとスゴイんです!』な展開だったな…)

以前打ち消した冗談が本当のことになってしまった。

(でも、こんなにしっかり立ち居振る舞っていながら眠っているなんて。そんなこと、本当にあり得るもんなのか?)

にわかには信じられないながらも、やはり学校で見る彼女の様子とは随分と違うということだけは分かる。何より、普段はあんなに仲良く話している二人なのに、今の彼女は京介のことを認識していない様子だ。

(でも、それならこの状況はどうすればいいんだ?彼女の目を覚まさせるには…)

そう、立花が考えを巡らせていた時だった。


廊下を小走りで駆け寄ってきた一人が立花の顔を見て耳打ちして来る。

「立花さま、お客さまがお見えです」

「はい?僕に、ですか?」

「ええ。若い学生さんのようで、本宮さんと言う方です」

「!!」


救いの手が差し伸べられたと思った。

「お通ししてください。お願いしますっ!」

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