眠り姫は夜を彷徨う
「でも、あの場に居合わせたのがオレらだったから良かったようなものの。お前…流石に気を付けねぇとシャレになんねぇぞ。あんな街中で眠ってみろ。何されるか分かんねぇって」

呆れてはいるのだろう。それでも、どこか諭すような口調の桐生に頭が上がらない。

「はい…。本当にその通りです…」

「それじゃなくても、今は『掃除屋』を倒して名を上げてやろうって輩が後を絶たないんだ。だが、それでもまだ、お前の顔が知れてないだけマシなんだろうけどな」

同意を求めるように立花に視線を向ける。

「確かにそうですね。桐生先輩があれだけ追っていても、掃除屋の正体がまさか如月さんだなんて思ってもみませんでしたからね」

「え…?そう、なんですか?」

学校での伊達眼鏡が役に立っていたということなんだろうか?

昔、夜出歩いているのが自分だとバレないようにと圭ちゃんと考えた案。

それが功を成していたというのなら、これ程嬉しいことはないと思う。

紅葉は隣に座っている圭にそっと視線を向けた。圭は、真面目な顔をしたまま先程から無言で皆の話に耳を傾けているようだった。

「その長い髪が絶妙な感じでキミの表情を隠しているんだよね。それに、学校での如月さんだけを知っていたら、今のキミにはなかなか繋がらないのが普通だと思うよ」

立花が眉を下げて笑って言った。

「…確かにな。如月の顔を知ってるオレでも、未だに信じられねぇ位だからな。だが、オレは昨晩。お前が大人数を相手に暴れてるのをこの目でしかと見てるんだ。間違いなく掃除屋はお前だよ、如月」

そんな桐生の言葉に、隣に座っていた門脇も無言で頷いている。
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