眠り姫は夜を彷徨う
「でも、罪のない人を傷つけて笑っているような人たちは嫌い。正直、いなくなってしまえばいいって…そう、思ってる」
そう抑揚のない声で呟く紅葉に、その場にいた皆が驚きに目を見張った。
先程までの純真な輝きを放っていた瞳は一変して、奥底に僅かなほの暗い陰が見え隠れしている。
「…如月。お前…」
それは、先程までの眠ったまま動いていた時の紅葉の表情によく似ていると桐生は思った。普段の明るい彼女に反して、心の奥底には確かに闇が存在しているのかも知れない。
皆が沈黙する中、圭が静かに口を開いた。
「やっぱり…。おじさんのことが引っ掛かっていたんだね」
紅葉に語り掛けるも、本人は応えることなく下を向いてしまう。
「『おじさん』…とは?」
桐生が続きを即してくる。圭は続きを話して良いものかと紅葉の横顔を伺っていたが、特に反論する様子もなく俯いているだけだったので、そのまま続けた。
「紅葉の父親のことです。紅葉が小学生の頃に交通事故で亡くなってしまったんですけど…。彼の事故は、街に寄り集まって悪さをしていた若者たちの妨害を受けて、それを避けようとした為に起きてしまった事故でした」
「事故…」
立花が顎に手を当てて聞いている。
「おじさんは、タクシーの運転手だったんです。その当時から駅前は荒れていて…。警察も溢れる若者たちの検挙に手を焼いて追いつかない状態の中での事故でした。その為、その事故は犯人の特定が難しいという理由でただの自損事故として処理されました」
「………」
圭の前で話を聞いていた三人の顔が複雑なものに変わる。
そっと視線を横へ向けると、紅葉が膝の上で拳を握り締めるのが見えた。
そう抑揚のない声で呟く紅葉に、その場にいた皆が驚きに目を見張った。
先程までの純真な輝きを放っていた瞳は一変して、奥底に僅かなほの暗い陰が見え隠れしている。
「…如月。お前…」
それは、先程までの眠ったまま動いていた時の紅葉の表情によく似ていると桐生は思った。普段の明るい彼女に反して、心の奥底には確かに闇が存在しているのかも知れない。
皆が沈黙する中、圭が静かに口を開いた。
「やっぱり…。おじさんのことが引っ掛かっていたんだね」
紅葉に語り掛けるも、本人は応えることなく下を向いてしまう。
「『おじさん』…とは?」
桐生が続きを即してくる。圭は続きを話して良いものかと紅葉の横顔を伺っていたが、特に反論する様子もなく俯いているだけだったので、そのまま続けた。
「紅葉の父親のことです。紅葉が小学生の頃に交通事故で亡くなってしまったんですけど…。彼の事故は、街に寄り集まって悪さをしていた若者たちの妨害を受けて、それを避けようとした為に起きてしまった事故でした」
「事故…」
立花が顎に手を当てて聞いている。
「おじさんは、タクシーの運転手だったんです。その当時から駅前は荒れていて…。警察も溢れる若者たちの検挙に手を焼いて追いつかない状態の中での事故でした。その為、その事故は犯人の特定が難しいという理由でただの自損事故として処理されました」
「………」
圭の前で話を聞いていた三人の顔が複雑なものに変わる。
そっと視線を横へ向けると、紅葉が膝の上で拳を握り締めるのが見えた。