眠り姫は夜を彷徨う
「あの初めて彼女を見つけた日。俺、掃除屋の顔を遠目で見たって言ってたじゃないスか」

「ああ。言ってたな」

「その時、実は彼女と一緒にいる本宮くんらしき姿を見掛けたんですよ。通りの向こうを自転車で二人乗りして行く所だったので、遠目だし確証はなかったんですけど」

あまり言い訳じみないように心掛けながら説明していると、桐生はニヤリと笑みを浮かべた。

「ほお?そんな話、初耳だな?」

変に凄みを出しつつも口角が上がっていて、余計に凶悪さが増している笑顔だった。

「や、やだなぁ。そんな怖い顔しないで下さいよ。ちゃんと確証を得てから報告しようと思っていただけじゃないですか。曖昧な情報を伝えても意味ないですから!それで後日、本宮くんに聞いたんです。一緒にいた子は誰なのかって」

「それで?」

「でも、本宮くんには振られちゃったんですよ。ね?本宮くん」

立花が救いを求めるように圭に同意を求めるが、圭は複雑そうな表情を浮かべるだけだった。

「ちょっと!本宮くんっ?」

慌てる立花に、圭は渋々口を開く。

「僕は『言いたくない』って立花さんに伝えました。一緒にいた子が噂の掃除屋かも知れないから、誰なのかだけでも教えて欲しいって説得されたんですけど。僕は、信じたくなかったし…」

そう話す圭の言葉に紅葉がゆっくりと視線を上げる。

「それに僕は、掃除屋の『仲間』ではないけど彼女を庇ってると思われるならそれでも構わないからって。自分からは何も話せることはないと、そう立花さんに伝えました」

そうきっぱりと答える圭は、険しい顔をしている桐生に負けない強い意志を瞳に宿していた。
< 149 / 186 >

この作品をシェア

pagetop