眠り姫は夜を彷徨う
「お前、本宮って言ったか。なかなか言うじゃねぇか。やっぱ男はそれ位でなくっちゃな」

桐生の瞳から僅かに険が抜ける。

真っ直ぐに目を合わせ、自分の意見をしっかり通せる圭を桐生はどうやら気に入ったようだ。何より彼女を守ろうとする想いに少なからず共感し、同族意識が芽生えたのかも知れない。

そんな桐生の表情の変化を横で観察しながらも、立花は自分に振られた話についてもどうにか納得してくれたようなので、内心で胸をなで下ろしていた。まあ、彼が本気で自分を責めていた訳ではないこと位は理解しているけれど。こんなのは二人にとっては日常茶飯事であり、ある意味じゃれ合いのようなものなのだ。



「何にしても、あとは如月…」

「はい…」

桐生が言葉を区切って呼び掛けると、紅葉はしっかり顔を上げて視線を桐生に合わせてきた。その瞳は若干不安そうに揺れてはいるものの、もう先程のような暗い色は存在していない。

「お前自身が自分の行動の意味を理解して、しっかり自覚しねぇとだな」

桐生は優しく諭すように言った。

「行動の…意味、ですか?」

「そうだ。本宮が言うように親父さんの事故を引きずっている自覚、少なからずあるんだろ?その時の傷がお前の深い部分には未だあって、それが夜の行動に現れてるってことなんじゃねェのか?」

桐生は確信していた。見ていたのだ。圭が紅葉の父親の話をしている時、辛そうに拳を握り締めていたことを。そして、その身を小さく震わせていたことを。

「そう、ですね…。そうなのかも知れません」

紅葉は小さく頷いた。
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