眠り姫は夜を彷徨う
そして…。
時刻は、もうすぐ午前十時を回るという頃。

頭上から眩しい程に日差しが降り注ぐ中、紅葉は自転車を押しながら歩く圭とともに静かな住宅街の中を帰途に就いていた。

実は圭が自転車の後ろに乗るかと声を掛けてくれたのだが、紅葉は少し一緒に歩きたくて、その旨を伝えたことで現在に至っている。

二人は暫く無言だった。

それでも、この無言の間がどれだけ続こうとも変に気まずい空気にならないのが圭と一緒にいて居心地の良い部分なのだと紅葉は常々思っている。

ただ一つだけ、現在の状況に違和感を感じる部分があるとすれば、それは自分の格好が夜眠る際の部屋着であること位だろう。特にパジャマ等の如何にもな服装ではないだけマシだが、自分的にはこの格好で外を出歩くことはないので、やはり少しだけ気恥ずかしい感じがした。


紅葉はふと、隣を歩く圭を少しだけ横目で盗み見た。流石に今回は圭に多大な迷惑を掛けてしまった自覚はある。

(いい加減、見限られちゃうかな…)

真っ直ぐ前を見つめて歩いている圭に気付かれない程に小さくひっそりと息を吐いた。


桐生の家で色々と話し込んでいたら、気付けば結構な時間が経過してしまっていた。圭が立花から連絡を受けて、あの家に到着したのが七時半を過ぎた頃だったので、約二時間は話していたことになる。

紅葉的には自覚のないままに目が覚めたら見たこともない桐生の家の庭にいたのだから、とにかく驚きしかなかったのだけれど。

でも、何よりも自分が今までしてきたことの真実。そして、目が覚めるまでにも自分を保護してくれた桐生たちに対して暴れていたという事実に。あまりに情けなくて穴があったら入りたい気分だった。
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