眠り姫は夜を彷徨う
先程のように外見だけで『真面目そうなコ』と敬遠されてしまうことも多々あったようで。

(それこそ、好都合…ってやつだけどね)

紅葉の魅力は自分だけが知っていれば良いのだ。

余計なお邪魔虫は、いないに越したことはない。

(紅葉は僕がこんな気持ちでいることなんて、きっと知りもしないんだろうけど…)

彼女は彼女なりに、今の『演出』を楽しんでいるみたいなので、これはこれで良しだろう。


ひとり考えに耽っている間にHR(ホームルーム)は終わったらしく、教師が廊下へと出て行くと途端に教室内はざわざわと賑やかになった。

「そういやぁ聞いたか?昨日の…」

「聞いた聞いた。ファントムが全滅したって話だろ?」

「ああ。何でも全員病院送りらしいぜ」

「すげーな。ある意味、地獄絵図だったんじゃね?」

「昨日は救急車やパトカーなんかのサイレンがやたら煩くってさ。後から知ったんだけど、現場が俺んちの近くだったらしい」

「マジかっ」


近くでクラスメイトたちが話しているのが圭の耳にも届いて来た。

『ファントム[Phantom]』とは、最近この辺りを陣取っていた不良集団のグループ名だ。

彼らは正確な人数や顔は公には知られていないものの、圧倒的な力でこの辺りのトップに君臨していた有名なグループであった。

関わりは勿論その集団さえ目にしたことはないが、圭もその存在と名前だけは知っていた程だ。

噂話の域を出ないが、様々な悪評が流れていたことは確かだった。
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