眠り姫は夜を彷徨う
「あなた…如月さん、よね?ちょっと、何であなたが本宮くんと一緒にいるのよっ?」

紅葉の姿を上から下まで不快感を隠すことなく侮蔑するように眺めると、どういうことだと問い詰めるような視線を圭に向けた。

「話が違うじゃない、本宮くん。あのこと皆にバラしちゃっても良いの?別に私はどうなったって構わないけど。本宮くん自身に危害が及ぶ訳でもないしね。でも、きっと大変な騒ぎになるんじゃないかなぁ。…あんまり得策とは言えない気がするけど?」

そう言って意地悪な笑みを浮かべて紅葉を横目に見た。

「………」

黙り込む圭に、紅葉が首を傾げる。

「あのこと…って、なに?」

すると、香帆は呆れたように笑いを漏らした。

「のん気なものよね。あなたには本宮くんの気苦労や優しさが、ぜんっぜん!伝わっていないのね。『知らない』っていうのは罪だわ。そんなんじゃ本宮くんが可哀想」

「気、苦労…?圭ちゃんが…?」

不安げな瞳を向けて来る紅葉に。

(これ以上は難しいのかも知れないな…)

圭は紅葉に視線を向けたまま眉を下げた。


そんな顔をさせたい訳ではないのだ。ただ、笑顔を守りたくて。いつだって紅葉には笑っていて欲しい。それだけなのに…。

彼女が持っている紅葉の写真は、全部をしっかり見せて貰った訳ではないが、確かに夜の街を出歩いているものだ。だが、それが本当に掃除屋に繋がる証拠になるものなのかどうかはイマイチ判らないのが現状だった。

(彼女の取引に応じながら写真を確認させて貰おうと思っていたけど…。流石に言うことを聞いているのも、そろそろ限界かな)

圭は腹を括った。
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