眠り姫は夜を彷徨う
「ね、本宮くん。私ならあなたにそんな思いは絶対させないよっ」

そう言って彼女は紅葉に向けていた表情を一変させ、花を振りまくような笑顔を圭に向けると、自転車を支えているその腕へと甘えるように絡みついた。…が。

「紅葉は何も悪くないよ。僕が勝手に紅葉を守りたいと思っただけなんだ」

圭は申し訳なさそうに紅葉へそう告げると。今度は隣に当然のように寄り添ってくる少女へと視線を下げた。

「磯山さん、もしあの写真をバラまきたいのなら好きなようにするといいよ。僕はもう、キミの取引には応じない」

そうきっぱりと言い放ち、絡められた己の腕を自然な動作で引き抜いた。

「なに…?そんなこと言っちゃっていいの?あのことが学校に知れたら、この子退学になっちゃうかも知れないよ?」

それでも良いの?と笑顔を浮かべて来る彼女の顔は、何処か引きつっていた。さり気なく外されてしまった絡めた筈の自分の腕の行方に戸惑っているようだった。

圭はそれに気付かない振りをして穏やかに返す。

「そうだね。本当にそんな問題になってしまうような写真があるのなら、どんな処罰を受けても仕方ないのかも知れない。でも、残念ながら紅葉は何も悪いことなんてしていないよ。罪を問われるようなことは元々ないんだ」

会話の合間にチラリ…と紅葉に視線を向けると、紅葉は二人の会話の内容を一生懸命理解しようと耳を傾けているようだった。

「何を言ってるの?今更誤魔化そうったって無駄よ。如月さんが掃除屋だってことは分かってるんだからっ」

「……っ…」

その言葉に紅葉が息を呑むのが分かった。
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