眠り姫は夜を彷徨う
「俺はただ情報提供をしただけなのに、先輩ってば本気で怒りだすんだもん。とんだとばっちりを食らっちゃいましたよ」

立花が苦笑を浮かべる。

「そりゃ、当然だろ?あんだけ如月のことを『大切です』アピールしといて、実は他の女と…なんて耳を疑うっつーの」

「…って言われても…。それ自体俺のせいでも何でもないんですけどね…」

隣で立花が小さくぼやいていたが、それをスルーして桐生は続けた。

「だが、脅しとはな。穏やかじゃねぇよなァ?嬢ちゃん」

口調は普段通りで口元は変わらず緩やかな上向きの曲線を描いているが、目が笑っていない。

(こ…怖い…)

素で睨みを利かせている時とはまた違った怖さだった。

隣にいる立花は勿論のこと、紅葉と圭もその桐生の眼力に思わず顔を引きつらせたが、ただ一人。香帆にはその圧力は伝わらなかったようだ。

突然現れた、校内でも知らぬ者などいない人気の先輩コンビの登場に驚きはしたものの、強気の態勢は崩さない。

「人聞きの悪いこと言わないでくださいっ。これは立派な取引なんだからっ」

開き直るように言い返してきた香帆に立花が再び苦笑を浮かべた。

「いやいや、弱みに付け込んでる時点で脅しでしょ。第一、そんな風に条件付きで本宮くんに傍にいて貰って、キミは楽しいのかい?」

「楽しいわよっ!だって、好きなんだものっ。好きな人が自分のものになるんだったら何だってやってやるわっ!」

半ばキレ気味の香帆に。桐生は溜息を吐くと憐れみの目で見つめた。

「それで…?だからって本宮と仲の良い如月を妬んで、わざと狙ってボール投げたりすんのかよ?」

「っ!!」
< 167 / 186 >

この作品をシェア

pagetop