眠り姫は夜を彷徨う
「そんな中で紅葉とも暫くまともに会えない日が続いて…。あんなに会わなかった日が続いたことって今までなかったよね?」

「そう、だね…。なかったかも…」

それ位、二人はいつも一緒だったから。紅葉が頷くと圭も納得したように小さく頷いた。

「正直、あれがもう少し続いたら僕はどうにかなっていたかも知れない」

今度は独り言のようにそう言って僅かに空を仰ぐと、当時を思い出しているのか痛々しそうに遠くを見つめた。

「紅葉がいない景色に慣れてないんだ。いつも…本当にいつも一緒だったから。学校でクラスが違って会う機会がなくても、朝一番に紅葉の笑顔を一目でも見られれば、僕はいつも通り過ごすことが出来た。…なんて、こんなの紅葉にとっては迷惑な話かも知れないけどね」

そう言って困ったような笑みを浮かべる圭に、紅葉がたまらず声を上げた。頬が熱かった。きっと、真っ赤に染まっているに違いないと頭の片隅で思った。

「迷惑なんてっ。そんなのある訳ないっ!そんなのっ…私だっておんなじだもんっ」

「紅葉…」

「こないだのは、幼馴染みだからって圭ちゃんの優しさに甘えてるって指摘されて。自分でも自覚はあったし、このままじゃ駄目かなって思ったからっ…。でも、私だって圭ちゃんと一緒にいたかったよ。圭ちゃんと磯山さんがいつも一緒に歩いてるのを見て、私…寂しか…っ…」

声が詰まる。

涙が出そうだった。


圭ちゃんの言葉がたまらなく嬉しくて。



道端で二人向き合って。

自転車を片手に支えながら、涙を堪える私をそっと慰めてくれる圭ちゃんに改めて言われた言葉。


「僕は、紅葉のことが好きだよ」

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