眠り姫は夜を彷徨う
確信は持てなかったが、その後ろ姿はあまりにも似ていて。

友人と別れたその足で慌てて後を追ってみたものの、もうその人物は周辺には見当たらなかった。

その後、一旦塾の駐輪場まで自転車を取りに戻り、家に戻って紅葉の家のドアを確認してみると、とりあえず鍵は閉まっていたのだけど。

鍵が施錠されているということは、多分紅葉は家にいる筈だ。

だが、自転車を取りに戻った分のロスもある。その間に家に戻った可能性も捨てきれないと思った。


(でも、眠っていても帰宅してしっかり鍵を掛けられるということは、外出する時も普段のように鍵を掛けて出たりするのかな?)

そうなると、家のドアを確認するだけでは紅葉の在宅を確かめることにはならないのかも知れない。

(…分からないな。紅葉の夢遊病は特殊だからな…)

本人に聞いても、きっと有力な答えは出てこないだろう。

(でも、夜の女の子の独り歩き自体危ないことだし、やっぱり心配だよ)

それが本人の意識のないところでなら尚更だ。何かあってからでは遅いのだ。

(せめて、おばさんが家にいてくれたらな…)

いつも気付ける訳ではないにしても、少しはストッパーになってくれるのだろうけれど。

それでも夜勤で家を空けている紅葉の母親の苦労は近くで見ていて痛い程に知っているから無責任なことは言えない。

(言えるハズがない…よな)

それはきっと、紅葉も同じ想いの筈だ。

(そういう色んな苦労やストレスとかも少なからず影響してるんだろうな…)
< 18 / 186 >

この作品をシェア

pagetop