眠り姫は夜を彷徨う
紅葉の父親は紅葉が小学生の頃、交通事故で亡くなった。

彼はタクシーの運転手で、夜勤で夜の街を走っていた際に自損事故を起こしたのだという。

だが、それはあくまでも表向きの話であり、実際は街に寄り集まっていた何者かの妨害を受け、それを避けようとしたことで事故に遭ったらしいとのことだった。

だが目撃証言はなく、街の至る所にカメラが設置されているとはいえ妨害した犯人の特定は難しく、その手のいざこざは日常的に至る所で行われており、警察の方でもお手上げ状態だったのだそうだ。

その事故をきっかけに紅葉の生活や環境はガラリと変わった。

当然だ。母子家庭になってしまったのだから。

(紅葉の夢遊病が酷くなったのも、確かおじさんが亡くなった後のことだったハズだ。亡くなってすぐとかではなかったかも知れないけど…)


紅葉自身は何も言わない。

でも、自分は紅葉の内情を知っている数少ない理解者であるという自負はある。

だからこそ、少しでも力になってあげられたら…と思うのだ。

紅葉が困った時には、いつでも手を差し伸べられるように。


(それでも、夜な夜な就寝中に動きだすのだけは予測がつかないからな…)


どうしたら彼女を守れるのだろう。

いつだって感じている歯痒さ。


(いっそ、紅葉に発信機やGPSでも埋め込んでやりたい位だ。そうすれば、いつだって傍に駆けつけられるのに…)

発想がだんだんと危ない方へ向かっていってしまいそうだ。
< 19 / 186 >

この作品をシェア

pagetop