眠り姫は夜を彷徨う
「グループ同士の縄張り争いみたいなのも起きてるのかな?集団での喧嘩も見掛けたことあるよ。あれだけの人数、いったい何処から集まってくるんだろうって感じでさ。そんな所にうっかり出くわしたら本当に大変なことになるよ」

「そんなになんだ…」

話を聞いている内に、次第に圭の身が心配になってくる。

「圭ちゃん、週に三回塾行ってるんだっけ?…本当に気を付けてよ」

「うん、ありがと。気を付けるよ」

そう頷いて返してくる目の前の笑顔に紅葉も大きく頷いた。

だが、その時。不意に何かを思い出し掛けて紅葉は思わず足を止めた。


何者かに周囲を囲まれる危機的状況。

向けられる明らかな『敵意』。

一触即発のピリピリとした空気感。


(え…?これって…?今朝見ていた、ゆめ…?)


あまり穏やかとは言い難い。けれど、そんな夢を見たような気がする。今の今まで忘れていたけれど。

(でも、何で今突然そんなこと…)

思い出す、そのタイミングがイマイチ良く分からない。


「紅葉も気を付けてよ。本当に」


不意に前方から圭の声が聞こえて来て、そこで紅葉は我に返った。

圭が足を止めてこちらを振り返っている。

紅葉は慌てて笑顔を浮かべると傍へと歩み寄った。

「ありがと、圭ちゃん。でも私は大丈夫だよ。夜に出掛けることなんて殆どないもの」

だから心配しないで。そう普通に返したつもりだったのに、何故だかじっ…と無言で見つめられてしまった。
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