眠り姫は夜を彷徨う
「?…圭ちゃん?」

その、何故だか意味ありげな視線に思わず首を傾げる。

すると圭は真っ直ぐこちらを見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。

「紅葉、こないだも聞いたけど…。毎日ちゃんと眠れている?」

「え?なん、で…?」

確かに今日はイマイチ疲れが取れていない気がするけれど。それを見透かされてしまったのだろうか。

(…もしかして疲れが顔に出ちゃってる、とかっ?)

慌てて目の下を覆うように頬に両手を当てる。

圭は、そんな紅葉の反応を不思議そうに眺めながらも続けた。

「例の症状は出てる様子、ない?」

「例の…?」

そこでやっと圭が自分の夢遊病のことを言っているのだと気が付いた。

「えっと…。どうだろう?自分的には最近は落ち着いているものと思ってたけど…」

特に自覚症状はなかった。

でも、こればっかりは本当のところは分からない。いつだって自分は普通に眠っているつもりなのだから。


歩きながら記憶を辿っている紅葉に、圭は「そうか」とだけ呟いた。

「でも、圭ちゃんがそうやって聞いて来るってことは、何か思う所があるんでしょう?もしかして、私…外にいたりした?」

傍から聞いていたら、きっと変な質問ではあるが。

「う、ん…。実は…。前に紅葉に似た人を駅前で見掛けたんだ。塾の帰りに」

「駅前…」

「でも後ろ姿だけだったから、いまいち自信はないんだけど。でも本当に、すごく紅葉に似ていて…。慌てて後を追い掛けたんだけど、その時は見失ってしまったんだ」

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