眠り姫は夜を彷徨う
まさか、最近また症状が出てるなんて思ってもみなかった。

朝起きれば眠った時と同じ布団の中なので、こればっかりは仕方ないのだけれど。その行動を気付く者は他に家にいない訳だし。

(でも、流石に駅前って…。あんなに遠くまで行けちゃうものなのかな?…眠っているのに?)

まるで他人事のように考える。


自宅から駅前までは普通に歩いても二十分は掛かる。

その距離を眠りながら歩いて行って、また自宅に戻ってくる。そんなことが果たして可能なのだろうか?


(うーん…。ないわー)

通常なら有り得ないだろう。そう、通常なら。

でも、自分の場合はその『通常』が通じない。それは今までの行動を目撃されていることで明確なのだから仕方ない。

(でも、それなら今朝のこの疲れも夜な夜な歩き回ってて身体が休めてないってことなのかもなぁ)

そこだけ妙に納得出来てしまう。


(でも…。怖いな…)


考えれば考える程に、怖い。

制御がきかない自分の無意識下の行動。

もしかしたら、本当は自分でない『何か』に身体を乗っ取られているんじゃないか、とさえ思ってしまう。

何か自分とは違う、別の『意思』を持って動いているようで。

(逆に、それはそれで怖いんだけど…)

紅葉は自らの思考に小さく溜息を吐いた。


(でも、圭ちゃんが見た私に似た人っていうのは、多分…本当に私なんだろうな。…圭ちゃんが私を見間違うハズないもの)

それは確信だった。

友人と前を歩く圭の後ろ姿を遠く眺めながら思った。

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