眠り姫は夜を彷徨う
珍しくカーテンが少し引いてあるな…とは頭の片隅で認識していたものの、しっかり囲ってもいなかったので、まさかそこに人が寝ているとは思わなかった。

教師が止めるのと、ベッドのすぐ傍へと踏み込んだのはほぼ同時だった。

「…おっと!悪いッ」

咄嗟に詫びを入れたものの、そこには一人の女子生徒がこちらに気付くことなく眠っていた。


「………」


それは美しい寝顔だった。

レースのカーテン越しに照らす柔らかな光に包まれ、長い睫毛が目元に影を落としている。

素直に綺麗だなぁと思うのに、その表情はどこか幼さを残していて未だあどけない。

柄にもなく思わず釘付けになり立ち止まっていると、後ろから教師に咎められた。

「こら、桐生くんっ!女の子の寝顔をそんなまじまじと見てちゃ駄目でしょっ。ほら、こっち!」

そうして引き離されるように後方へと引っ張られ、すぐさま彼女の周りを見えないようにカーテンで覆われてしまう。

まるで敢えて覗いたとでも言うような口振りに、

「別に。まじまじと見てなんかねェし。それに今のは完全に事故だろ」

そう言いながら、今度は別の空いてるベッドへと足を向けた。

だが、何だか今ので眠気も何処かへ飛んで行ってしまったような感じだ。

それでもとりあえずベッドに腰掛けると、教師はその女子生徒の様子を伺っているようだった。


「なに?その子、具合悪いの?」

何となく気になって聞いてみる。

すると、教師が僅かに声を落として言った。

「頭痛がね、酷かったみたいなの。かなりフラフラでここに来たんだけど薬が効いたのかな。今は良く眠ってるわね」

「ふーん…」
< 36 / 186 >

この作品をシェア

pagetop