眠り姫は夜を彷徨う
その時、養護教諭を呼び出す内容の校内放送が廊下から聞こえてきた。保健室内では休んでいる生徒がいるからかスピーカーの音量は切られているようだ。

「あら、何かしら?」

自分の名前が呼ばれたことに気付き、教師は慌てて机の上に広げていた書類等を綺麗にまとめると保健室を後にする。

その際に「ちゃんと授業始まる前には教室に戻るのよ」と桐生に釘を刺していくことも忘れなかった。

「へーい」

桐生は、とりあえず手を上げてそれに応えたものの、午後の授業なんてものは正直かったるい以外の何ものでもない。出来ればこのまま、まったりとベッドに横になってお昼寝タイムへと洒落込みたいところだった。

だが、やはり先程まで襲って来ていた酷い眠気はもう殆どなくなっている。

とりあえずベッドに腰掛けた状態から、そのまま身体を後ろに倒して大の字に寝転んだ。その際に、ベッドのスプリングがギシリ…と、思いのほか大きな音を立てた。


「…ん…」


途端に隣から小さな声が聞こえてきて桐生はぎょっとする。

(やべ…。今ので起こしちゃったか?)

薄いカーテンで隔たれた向こうから人の動く気配がする。例の彼女が起き出したのか、ベッドの軋む音が僅かに響いた。

そしてカーテンの隙間から僅かに顔が覗いた。

「あれ…?せんせい…?」


「先生ならいないぞ」

横から口を出すと、彼女はこちらの存在に気付いていなかったのか若干驚いた様子を見せた。

「呼び出されて、どっか行った」

「あ、そうだったんですか…」


寝顔が印象的だった彼女は、起きている顔も綺麗で可愛かった。
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