眠り姫は夜を彷徨う
「なに?アンタもう戻るのか?」

一度出した顔を引っ込め、布団を整えているらしい彼女に話し掛けると、律儀にも再びカーテンから顔を出してこちらに視線を合わせて来た。

「はい。いつまでも寝てる訳にはかないので…。ちなみに、今って昼休み…ですよね?」

遠くから聞こえて来る放送の音楽に耳を傾けている。

「そ。昼休み。だけどさ、先生戻ってくるまで待ってればいいじゃん。アンタ、頭痛かったんだろ?もう少し休んでたら?」

すると、彼女は不思議そうな表情を浮かべて再びこちらに、じっ…と視線を合わせて来た。何で知っているんだ?という顔だ。

まあ、当然の反応だろう。

(初対面の奴にこんなこと言われてもフツーに違和感しか感じねぇもんな)

自分も普段なら、こんな風に初対面の人物に気軽に話し掛けるようなことは滅多にしない。逆の立場なら尚更、煩わしいと思うだけだ。

だが、何故だか彼女には自然と話し掛けてしまっていた。

何となく興味があったのは確かだ。

先程の綺麗な寝顔が、あまりにも印象的で未だに脳裏に焼き付いて離れないからなのかも知れない。

「さっき、先生に聞いたんだよ。アンタが保健室に来た理由。オレ、ある意味この時間のココの常連だからさ」

そう言って笑うと、彼女はどこかホッとしたように表情を和らげた。

「そうだったんですね。お気遣いありがとうございます」

返ってくるのはしっかり敬語だったが、お堅い感じはなく、口調はわりと気さくな感じだ。その辺も好感が持てる。

何より初対面ながらにも真っ直ぐこちらに向けられる、その彼女の視線に満足感を覚えた。
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