眠り姫は夜を彷徨う
その時、先程出て行った養護教諭が戻ってきた。

「あら如月さん、もう起きて大丈夫なの?午後から授業戻る?」

「あ、先生」


途端に彼女の意識が養護教諭の方へ向いてしまい、桐生はどこか惜しい気持ちになりながらも二人の会話を横で静かに聞いていた。

(この子、きさらぎ…っていうのか)

彼女は先生と会話をしながらも使用していたベッドを取り囲んでいたカーテンを開き、端で纏めたりと随分と手際が良かった。何より見えるようになったベッドの上の布団は本当に綺麗に折りたたまれていて彼女の几帳面な様子が伺える。

(随分、しっかりしたコ…なんだな。っていうかマジメ?)

自分とは、ある意味正反対のタイプのようだ。

何より見えるようになった彼女の髪型は、いわゆる真面目な女学生の典型スタイルで。

(…ちょっと…意外だった)

髪型なんて別に関係ないが。

二つに分けた三つ編みが彼女が話す度に小さく揺れている。


「薬が効いたみたいで良かったわ。でも、あまり無理はしないのよ」

「はい。ありがとうございましたっ」


やはり、もう教室へ戻るようだ。

桐生は横になっていた身体を起こしベッドに腰掛けたままそんな二人のやり取りを眺めていたが、不意に彼女がこちらを振り返った。

「…お先に失礼します」

わざわざこちらにもペコリと頭を下げて来る。

それもある意味真面目の典型のような対応だが、その表情はどこか悪戯っぽく、若干肩をすくめるような感じで砕けた笑顔を見せていて変に嫌味な印象はない。

桐生はつられるように笑顔を見せると「おう、お大事にな」そう言って軽く手を上げて応えた。
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