眠り姫は夜を彷徨う
だが、不意に何かが引っ掛かった。

(ん?あれ…?さっきの後ろ姿、どこかで…)

揺れていた三つ編みに何かを思い出し掛けながらも、それ以上考えるのが面倒になった桐生は「ま、いっか」と、ひとり小さく呟くと再びベッドへと倒れ込んだ。

「もうすぐ五時限目のチャイムが鳴るわよー」

先生の苦笑交じりの呆れたような声が聞こえて来たが、いつものことなのでそのままスルーして桐生は目を閉じた。



そして、放課後。

滅多に人が訪れることのない屋上に桐生はひとり佇んでいた。

校庭では、それぞれ割り当てられたスペースで既に部活動が始まっており、生徒達が元気に声を上げたり走ったりしている。

それを眼下に何気なく眺めていると、良く知った足音が背後から近付いて来た。


「桐生センパイ。お待たせして申し訳ありません」


その声に振り返ると、いつも制服を着崩している自分とは違い、相変わらずきっちりと着こなしている自分とは正反対のタイプの小奇麗な後輩の姿がそこにあった。

「おう、立花。お疲れな。お前も生徒会とかで色々忙しい身なのにご苦労だな」

「いえ、全然。今は大した仕事もないんですよ。それに、京介さんのお役に立てることの方が俺的には重要なんで」

にっこりと微笑むその邪気のない顔に、桐生はフッ…と息を吐くように笑うと「お前も大概モノ好きだよな」と、肩をすくめて呟いた。

「ところで、今朝お話しした例の『掃除屋』の件。なかなか興味深い話が聞けましたよ」

「おう」

「正直、俺は驚きでしたけど…」

そんな前置きから語られた内容に、桐生も少なからず驚きを隠せなかった。


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