眠り姫は夜を彷徨う
「あ、うん。全然平気だよっ。ちょっと頭痛くて保健室で休んでただけだから。少し寝たら楽になって午後から授業に戻ったし…」

「そうだったんだ?…そんなの全然知らなかったよ」

クラスが違うのだから知らないのは無理もないと思うのに、圭ちゃんは何故だか申し訳なさそうな表情を浮かべた。

もう既に前のことなのに、こんな風に気に掛けてくれることが素直に嬉しい。

「本当に大したことなかったから…」

でも『心配してくれてありがとう』という気持ちと『今はもう元気だから心配ないよ』の意味を込めて圭ちゃんに笑顔を向けると、圭ちゃんもそれに気付いたのか、こちらの気持ちを汲み取るように微笑みを返してくれる。

「そっか…。ならいいけど」

「うん」

「でも、気を付けるんだよ」

「うん。ありがと、圭ちゃん」


最初は桐生さんのことを話していたような気もしないでもないけど、結局はいつも通りのそんな会話をしながら昇降口へと辿り着き。自然とそれぞれクラスメイト達と合流する形になり、圭ちゃんとはそのままそこで別れた。


「ほんっと仲いーよねぇ。アンタたち」

「え?『アンタたち』?」

昇降口で一緒になったタカちゃんと教室へ向かいながら歩いていた。

「まーた、とぼけちゃって。本宮くんだよ、本宮クン」

「ああ…圭ちゃん」

「二人で歩いてると良い雰囲気じゃない。あれでホントに付き合ってないの?」

タカちゃんが探るように聞いて来る。

「私と圭ちゃんは、そんなんじゃないよ。家がお隣同士の幼なじみ。ただ、それだけ」

今までも何度そう聞かれたか分からない。
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