眠り姫は夜を彷徨う
「私そのコのこと、ちょっと知ってるんだけどさ。まぁ、わりと可愛いコではあるんだけど、少しばかり厄介なトコがあってさ…」

「厄介?どんな風に?」

「うん。敵に回すと…っていう意味で」

「敵?でも、私はその人のこと全然知らないし敵でも何でもないよ?」

それなのに何故私が気を付ける必要があるんだろう?疑問に思っていると、タカちゃんは脱力した様子で私の肩に手を置いた。

「アンタにその気がなくても向こうからしたら大アリなんだってこと」

「?」

「アンタたちは付き合ってないっていうけど。彼を好きな子から見れば、彼が気を許してる紅葉の存在は邪魔者以外の何者でもないってワケ。何が厄介かって、その子嫉妬深くて面倒なコなのよ。だから、アンタも気を付けなさいよって言ってるの」

(ああ…またか)

そう思いながらも、心配してくれているタカちゃんには素直に「分かった。気を付けるね」と大きく頷いておいた。

実際、それがただの杞憂(きゆう)に終わることを祈りながらも。




そんな紅葉たちから少し離れた後方に。人知れず冷たい視線を二人の背に送り続けている者がいた。

否、二人にではない。正確に言うと紅葉に、である。

本人たちは知らぬことではあるが、噂をすれば…というやつだ。

少女は紅葉たちと同色の上履きを乱暴に床へと落とすと。

(あいつ、今日も本宮くんと一緒に登校して来て…。幼なじみだからって本宮くんの優しさにいつまでも甘えちゃって…ホント何なのよっ。いい加減図々しいの気付きなさいよっ)

イライラを隠さずに靴へと足を差し込むと、手提げ鞄を持つ手に力を込めた。
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