眠り姫は夜を彷徨う
狙いはバッチリで思いのほか勢いのあるボールがあの女の後頭部目掛けて飛んで行き、今度こそ確実にヒットしたと思った。

だが…。

当たるか当たらないかという際どいところで不意にあの女は屈み込んでそれを回避したのだ。

よく見てみれば、上靴の紐が気になってたまたま結び直していただけのようだったが、それにしては何というタイミングなのだろう。

(なんて往生際が悪い、悪運の強い女なの!)

それからも同様のことが何度かあった。

古典的な悪戯感は否めないが、あの女がいつも一番に清掃担当場所である音楽室に行くのを知っていて音楽室の扉に黒板消しを仕掛けてみたり、ロッカーの上に崩れやすいように空き箱を積んで置いたり。

でも、あの女はことごとくそれらを上手い具合にかわしてしまった。

最初は、大好きな本宮くんの幼なじみなんて魅力的なポジションをキープしているあの女を面白くないと思い、少し痛い目みせてやろう程度にしか思っていなかったのだけれど。

流石にここまで来ると意地にもなってくるというものだ。上手くいかないことが余計にあの女への執着を生んだのは確かだった。

(今に見てなさいよっ。絶対思い知らせてやるんだから)

少女は密かな野望に目を光らせた。





(まだ二時間目か…。腹減ったな…)


桐生はひとつ大きな欠伸をすると、左手で頬杖をついた。

古典の授業中。

この授業の教師は、前でひたすら教科書を読んでいるだけなので退屈なことこの上ないのだ。それに加え、生徒達に注意も何もしないので毎回睡眠タイムになりつつあるのが現状だった。
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