眠り姫は夜を彷徨う
窓際の一番後ろの席である桐生の場所からも何人かが教科書を盾にして机に突っ伏して眠っているのが確認できる。

自分も怠いなとは思いつつも、まだ二時限目なのもあり然程眠気はなく、退屈しのぎにふと校庭へと視線を向けた。

校庭では女子が体育の授業中であった。

明日実施予定であるスポーツテストの種目を少しでも消化する為なのだろう。ハンドボール投げの記録を取っているらしかった。校庭に特有の飛距離を測る為のラインが引いてある。

上履きと同様、学年カラーで分けられた体操服で、それが一年生であることを瞬時に理解する。

その中に見知った姿を見つけて目が止まった。


(あれ、如月じゃん)


トレードマークの二つに結わいた三つ編みが揺れている。

学年も違い、普通なら自分とは何の接点もなさそうな彼女だが、保健室で出会って以来、何かと視界に入り込むことが多い気がする。

それは本当に偶然以外の何ものでもないのだが、何しろ今どきあの見た目だ。ある意味浮いていて逆に目に付いてしまうのかも知れない。

(『超』が付くほど地味な見た目なのに目立つとか。…不思議なもんだけどな)

それでも自分がこうして彼女の顔と名前を覚えているのは、その地味な見た目と素顔とのギャップがあまりにも印象的だったからだ。

決して狙った訳ではないが、偶然目の当たりにしてしまった寝顔が本当に綺麗で。

そして、目覚めた彼女はその寝顔以上に何より可愛かった。控え目な、その構えない笑顔に僅かながらも心惹かれたのは確かだ。

(でも、あの眼鏡はなぁ。…ねぇよなァ)
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