眠り姫は夜を彷徨う
彼女の言葉が心に小さな棘を刺す。


だって、全部図星だった。

自分でも圭ちゃんに頼り過ぎてる自覚はあったから。

家はお隣同士だし親子共々昔からの付き合いで。小さな頃はいつだって一緒にいたから、まるで兄弟のように圭ちゃんは私の欠点も何もかもを分かってくれている。そんな関係が居心地良くて。


でも、そんな圭ちゃんの優しさに甘えてしまっていたのかな…?

圭ちゃんの『迷惑』に気付かない程に?


(そんなの…イヤだな。圭ちゃんにこれ以上嫌われたくない…)


朝、家を出る時間は変えれば済むことだけど、それ以外にも少し距離を取った方がいいのだろうか。

(「ちゃん」付けもダメなのかな?恥ずかしいって…実は今まで思ってたりしたのかな?)

もし、そうだとしたら悪いことをしてしまった。

(でも、それなら…これから圭ちゃんのこと何て呼べばいいの?)

昔から数え切れぬ程に口にしてきた、その呼び名。

それさえも、知らぬうちに彼を苦しめていたのだとしたら…?


紅葉は心底いたたまれない気持ちになった。

その日の授業の内容は、当然何も頭に入ってこなかった。






その翌日。

紅葉は今まで家を出ていた時間を少しずらした。


紅葉とクラスメイトの女子とのやりとりなど知る由もない圭は、いつもの時間に紅葉が出て来ないことを不思議に思っていた。

(紅葉、どうしたんだろう?寝坊とかじゃなければ良いけど…)

それでも、約束をしている訳ではないので少しだけ家の前で待った後、そのまま学校へと向かったのだった。


今朝はどうしたのか、学校で会った時に聞けば良いかと思いながら。

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