眠り姫は夜を彷徨う
「お待たせしてしまいましたか?すみません」

相変わらずの気使いに思わず笑いが漏れる。

「別に構わねぇよ。オレが早めに着いてただけだ。でも、お前もこんなに遅くまで大変だな。オレなら耐えられねぇわ」

すると、立花はにこやかに応えた。

「まあ、俺の場合はコレのお陰で夜の外出は割とルーズなので。逆に上手く利用させて貰ってます」

しれっと、そんなことを言うコイツは見掛けによらずなかなかの大物だ。

「立花…。お前、流石だな」

「お褒めにあずかり光栄です」

そうして二人して笑い合うと、どちらからともなく歩き出した。




「やはり、結構な数が集まって来てるんだな」

二人物陰に隠れながら、裏通りにたむろしている集団を見やった。薄暗い路地には十数人の見るからにチンピラ風な男たちが道路やガードに腰掛けて、何をするでもなく溜まっている。

「最近は『掃除屋』効果でどんどん色んなのが集まって来てますよ。自分らの手で噂の奴を仕留めてやるんだって躍起になってるんです」

「へぇ。何だかんだでしっかり有名人なんだな。だが、逆に奴が現れたことでうるせぇのがもっと集まって来るんじゃ意味がねぇよな。で…今夜も奴は来ると思うか?」

「そうですね。最近は比較的遅めの時間なんですが、このところ毎日現れてますからね。来る確率は高いと思いますよ」

「へぇ」

何処で仕入れて来るのか分からないが、立花の情報収集力は流石だ。毎回頭が下がる。

「そんじゃあ今日こそ、その噂の『掃除屋』とやらの顔を拝見させて貰うとするか」

桐生は不敵な笑みを浮かべた。
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